第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
私の向かい側、テーブルの奥に座ったタクマさんが首を左右に傾けて小さく息をつき、それから私を見てからふっと優しい表情になった。
そしたら私も少し落ち着いて、一緒にそんな顔になった。ような気がする。
「席、こっちがいいのか? メシはなんか食ったか」
「ううん。 まだだよ。 一緒に食べたかったし。 残業お疲れ様」
「そっか」
そして手を伸ばして撫で撫でしてくれる。
ネクタイはしてないけど仕事帰りのタクマさんも素敵だなあ。
二つだけボタンを外した襟元とか。
崩した前髪とか。
職場ではまた胡散臭かったんだろうなあ。
会ったなりはいつ見ても、ドキドキする。
だから私は見慣れるまで少しずつ調整しながら彼を見る。
でも、今日はなかなか慣れない。
「これ旨いだろ?」オーストラリア料理らしいけど、日本風にアレンジしたやつ。 いくつかオーダーをしてくれて、タクマさんがそんな風に説明してくれたお肉の味もいまいちよく分からなかった。
「食ったら海でも行くか?」
「ううん……今晩は、いいかな」
「……フーン?」