第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
しばらく胸に手を当ててうーんと小さく唸っていると、再びお店のドアが内側に開いた。
「遅くなった。 綾乃は? って、紗栄子もいんのか」と、中に足を踏み入れ店内を見渡したのはタクマさんだった。
「たまたまね。 邪魔しないから上でしっぽりしてなよ」
「上? ……何してんだんなとこで。 座敷わらしか」
もう外は暗くなりかけてるから、間接照明だけが照らすここのロフトは薄暗い。
上を見上げてこっちに向かってくるタクマさんに、なぜだかいつも会ったときみたいには笑えなかった。
「色んな人間模様を垣間見てるんだよ」
「ふふっ。 面白い子。 なんだっけ……去年から拓真に付きまとってた女の子が来てたから追い返しといたよ。 そんなのいたら綾乃ちゃん、降りて来れなくなっちゃうよね」
そんな風に言って、小皿に載った小さなチーズを一切れ口に運んだ紗栄子さんが「ん、美味し」と満足げな表情で微笑む。
もしかして。
この人、ここにいた私に気付いてて気を使ってくれたのかな?
これで更に良い人とか、すごすぎる。
さすがタクマさんの元カノさんだ。
「んなの、いつの話……もう一人がタケに惚れてオレはたまたまついでだから」
「拓真は相変わらず彼女以外には我関せずなんだねえ。 まあ、アタシもダンナにベタ惚れだけど」
階段を上りながら「競うとこかよ、それ」苦笑いを返すタクマさんをじっと見る。