第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
「なにっ……それ!?」
「まあまあ……」
「わ、私……そんなつもりじゃ」
顔を赤くして立ち上がるイズミさん。
両てのひらを広げて彼女をなだめようとするタケさん。
泣きそうな顔で俯くナツさん。
そんないっぺん通りの修羅場が始まるかと思いきや、紗栄子さんがすっと席を立ち、「タケ、アンタもそういうとこ、もう少し拓真見習ったら? 来年結婚すんでしょ」そう言って、スタスタと歩いて彼女たちと反対のお手洗いの方向へ向かった。
その途中に紗栄子さんがふと私を見上げ「あら、可愛い座敷わらし」などと開きかけた蕾みたいな笑顔を向けて、通り過ぎてく。
その間にまた二人連れのお客が入ってきて、海の見えるテーブル席へついた。
「……もう、帰るっ!!」消え去ってしまった紗栄子さんにも、いつも通りに接客に向かうタケさんにも、怒りの矛先をどこへ向ければ分からない様子でイズミさんが立ち上がった。
その後を追うようにナツさんもお店を出ていき、その後タケさんが私を見上げ、両手を合わせてゴメンと言ってきた。
イケメン店主って大変なんだなあ。 私はそんなタケさんに同情した。
「チーズ食べたいな。なんか、濃いいやつ」何事もなさげにお手洗いから戻りメニューを見始める彼女に「紗栄子さあ。 もうちょい言い方が」とタケさんがたしなめる。