第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
と、そうしていたらまた一人、女性がお店に入ってきた。
今度はすれ違ったら同性でも振り返りそうな綺麗な人だと思った。
何も言わずに、ストンとカウンターの隅に座ったその人にタケさんが気の置けない様子で声をかけた。
「仕事早く終わった? で、また夜遊びか」
「週末の夜ぐらい、息抜きさせなさいよ」
この声は聞いたことがある。
あの時はお酒を飲んでいたのか、もう少しテンションが高くて『バイバイ、タクマ!』 そう言っていた。
タクマさんたちのお仲間だろうか。
その彼女の前に、何も言わないのにタケさんからカウンターの上に置かれたペットボトルのミネラルウォーター。
二人連れの方の歳は二十歳ぐらいだろうか。
女性の方はタケさんやタクマさんと同じくらいだと思う。
そんなタケさんになんだか焦れた様子でイズミさんが声をかけた。
「ねー、タケ。 最近話聞かないけど、タクマって彼女と別れたの?」
タケさんがやや困ったような表情をして、カウンター下の冷蔵庫を開ける際に私の方をチラと見た。
そりゃ、そうだよね。
でも別に、私とタクマさんのことを彼が話したって悪いことじゃない。
それからタケさんは今お仕事中だ。
私のことは気にしなくていいですよ。 そう言う代わりににこっと口角をあげた。