第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
……私は彼の性格を見誤ってたんだね。
あれは失言だったのだなあ。
そうこぼした父に、私はあからさまな呆れ顔を向けるとともにその時、チクッと自分の胸にトゲが刺さったような感覚があった。
そしてそれを、思い出した今も。
これ、一体、なんだろう?
こないだから何度考えても分からない、不可解な感情だった。
「タケー!! 来たよ!」
そんな大声と、勢いよく開かれるドアの音ではっとして顔をあげる。
「あ、いらっしゃい。 イズミちゃん、今日も元気だねえ」
イズミ。
なんとなく、隠れるように頭を下げて下のフロアに目線を向けるとこないだ赤い車に乗っていた二人連れの女性が、慣れた様子でカウンターに向かっている。
「さすがにこの季節はもう、海遊びしてる子は居ないね」
「昼間には、少しはね。 ここは元々あんまりいい波は来ないし」
……ええと、復習。
イズミさんという人は、確かタクマさんに好感を持っていた、ような気がする。
もう一人の大人しそうな女性は普通にいい人そうだけど。
でも、タケさんのお店で厄介ごとはやだなあ。
そう思ったので私はじっと動かずに黙っていた。