第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
……そこで、私は思い付いたわけだね。
『拓真くん。 きみに、私の大切な綾乃をあげよう。 私の妻は美人だし、優しく可愛い人だ。 もう10年か15年も経てばさぞや』
『………要らねえよ。 なんに使うんだよこんなフニャフニャした生き物』
『え、ええっ……?』
あの時の拓真くんは、物凄く嫌そうな顔をしてたなあ。 うんうん、そう目を閉じて頷く父だった。
「……それって許嫁っていうの? 世間一般に」
「それからも日々話をしたんだがねえ……」
私の指摘を無視し、困ったものだとでもいうようにこめかみに指を添わせる父。
『若紫だって14歳で結婚して、光源氏と相思相愛になったじゃないか』
『それ平安時代の少女漫画だから。 大体、オレ今、付き合ってる女いるし』
『10年後はどうなってるかなんて分からないだろう?』
『あのなぁオッサン……結婚が一生コイツといるって約束なら、付き合うってのは今そうしてたいっつー意思表示だろ? そういう相手がいるオレに、つまんねえこと言うなよ』
『でも、この子は実際よく泣く子でね。 きっときみなら放っとかない。 泣かさないで大事にしてくれると思うんだ…もう帰るのか? ん?……なんでそんな冷たい目で。 拓真くん待ってくれ、拓真くん!』