第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
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タケさんのお店の、ロフトにある落下防止のための格子の間に挟まりながら、じっと考え込んでいる私を見て、「なんか置物みたいなってるけど、綾乃ちゃん。 可愛いからそうしてたら?」苦笑しながら彼が飲み物を持ってきてくれた。
「いちおノンアルだからね」また階下に降りていくタケさんにお礼を言い、一口グラスの中身を含むと、数種類の柑橘系に少し炭酸を足したような味がした。
甘すぎなくって、美味しい。
こくこくとそれを、飲みながらもう一つの話を頭に浮かべる。
そんな父の話を聞いたあとに。
それから私はまた、以前から気になってたことを父に訊いてみた。
「……でも、そういう関係で、いつ私はタクマさんの許嫁になったの?」
「ふむ……あれは、そうだね」
私たちが一旦会わなくなった前のことだね、と父がまた語り始めた。
私と綾乃がよく連れ立って一緒に海に行っていたから、そこで拓真くんがお前を見てくれることが多かった。
三歳の子供なんて、いきなり駆け出して転ぶなんて日常茶飯事だったからねえ。
拓真くんはハラハラしてたんだね。
『あっ、綾乃』
躓いたお前を、後ろから慌てて首根っこ掴んでは、文句を言うんだ。
『……っぶねえな。 なんだってガキって、こんなチャレンジャーなんだ。 バランス悪ぃ癖に』
だけどお前は機嫌が悪くても拓真くんに抱っこされると嬉しがったし、彼も軽口を叩きながらも世話を焼いていた。