第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
病気の父上のことを聞いても、こう言ってはなんだが、もう間もなく亡くなる人間だ。
拓真くんの人生はこの先も長い。
彼が何に対して義理立てしているのかが、私には分からなかった。
だけど彼は言ったんだよ。
そう呟き、当時の事を思い出すように注意深く父が目を閉じた。
『運は実力ではなく限られた選択肢に過ぎない。 だがどれを選んでも、自分の意思は自由の名の元にある。 オレが最期まで親父の面倒を見ることを決めた』
親の望みに反して、その遺産で自分の好きなことは出来るが、そんなものを与えられるのは自分が嫌なのだと。
『そう選んだ、自分の自由だけはオレのものだ』
お前のことも何だかんだで可愛がってたから元々、彼は弱い者を放っておけない、そういう性分なんだろう。
だが、本当に自由な人間ならば、本来、それを口にする必要なんてないんだよ。
そんな彼の、たまにしか見せない稚拙さに気付いてはいても、私には何も言えなくってね。