第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
ここの浜と隣の大きな浜辺との間の公道沿いに、タケさんのお店がある。
シンプルな色のないライトで浮かび上がるお店の、ダークブラウンの看板。
以前に来た朝と違い、シックな雰囲気がある。
車でしか来れない場所だし、夜は観光客向けではないのかもしれない。
お店の裏の駐車場に車を停め、タケさんが先立ち鍵を開けて中に案内された。
音楽もかかっていて開店の準備はあったが、誰も居ないようだった。
「途中でお店抜けてきてくれたんですか? わざわざありがとうございます」
この時間はまだヒマだからね、大丈夫だよ。 タケさんがそう言ってくれた。
「拓真ならあと一、二時間したら来ると思うから。 色々見るものあるし、ゆっくりしてってよ」
厨房らしき店の奥へのタケさんが入っていく。
高い天井を見上げると、ファンがゆったりと回っている開放的なスペースで、上のロフトにテーブル席もある。
温かみがあるけれど、古臭くもない。
階段から上に登り、ロフトを見渡してみた。
壁に沿って並んだ本棚には、海外の海やカラフルな熱帯魚の写真集、サーフィンの雑誌。 色々な書籍があり、クッションにもたれてその中何冊かをパラパラとめくった。
『美味いキャンプ飯 100選』これ、タクマさんが買ってそうっぽい。
「上手くいってるかとは思うんだけど、どう? 拓真ってあんなだから、誤解されやすいんだよね」
階下から聴こえてきたのはお店の料理の下ごしらえをしているのだろうか。 トン、トンとなにかを切っている様子のタケさんの声。
良い人だし、タクマさんと仲がいいんだなあ。
そんなことを思うと顔がほころぶ。
親近感というか仲間意識というか。
「ホントは構いたがりの癖にさ」特に馬鹿にする様子もなくそう言った彼に、それも分かります! と格子の間から顔を出して同意した。
「だから学生の時も……ああ、これは綾乃ちゃんはまだ小さい時だったね」
私がまだ小さい時。
お父さんがあの夜に話してくれた辺りだろうか。
以前私に話してくれた、父とタクマさんが親交のあった頃の話。