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朝凪のくちづけ【R18】

第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?



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タクマさんのところからの最寄り駅。
根川市でも端っこの位置にあたる駅のホームに降り立ってから小さな改札をくぐる。
その数は私も入れて10人ほど。

これでも金曜の夕方だから、まだ人数は多い方だ。


すううー。はあ。

久しぶりに嗅ぐ濃い緑の匂いに、深呼吸を繰り返す。

東京より温度の低い風が頬を撫でる。
ホーム沿いにまで、ボサボサ伸びた背の高い雑草からは、物怖じしない虫の音が聴こえて。

……自分の体の細胞が喜んでるような、そんな感じ。
やっぱりいいなあ、ここって。 そう思う。



「──────綾乃ちゃん」



こんな場所とは、あまりそぐわない様相の男性が、タクシー乗り場の近くで車を止めて、車窓から顔を出していた。
タケさんは明るいけどチャラいという歳でもないからか、落ち着いていて話しやすい。

タクマさんが精悍かつ絶妙に繊細なタイプとすると、タケさんは甘く色気のあるタイプのイケメンになるのだろうか。

───────否



「………綾乃ちゃーん、相変わらずでなによりだけど」



私としては、『色気』という言葉はタクマさんの、時おり垣間見える、可愛らしさや危うさにこそ、捧げたいと思っている。



「いちおここ、ロータリーだから。 早く車乗ってくれたら助かるよ」


「っあわ! ご、ごめんなさい!」



クスクスと笑いながら私が車に乗るのを待って、お天気良くてよかったねー、疲れた? などと気遣ってくれる。

少し大きめの瞳から目尻に流れる曲線は、細まると垂れがち。
柔らかそうで、綺麗な口元。

タクマさんの友だちというのもあるけど、きっとこの人は良い意味で、人を油断させやすい外見なんだなと思う。

車に乗って三分も経てば、まるで近所に住んでるお兄さんみたいな感覚で、彼と話している自分に気付く。



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