第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
「んで? 今日は病院行ってきたんだろ」
スマホの向こうで、衣擦れの音が聞こえた。
今、シャツかなにかを脱いでるのかな?
きっと帰ったなりに、連絡をくれてるのだと思った。
顔を映して話すのはなぜかタクマさんが嫌がった。
だから彼と話す時は、私はいつも自室のテーブルの上にスマホを置いて、正座をする癖がついている。
「大丈夫だよ。 先週の検診結果も特に問題はなかったし。 食事ももういつも通り。 頑張ったよね?」
体が元気になったらタクマさんが会ってくれると信じて、私は毎日早起きをし、規則正しい生活を送っていた。
「そっか。 あ、でも金曜オレ、残業あんのな」
「ゆっくり電車で行くよ」
「土曜は? 朝から迎えに行くから」
「やだよ。 勿体ないもん」
不満を漏らすと、ふっと笑う彼の声が聞こえた。
「何だよ……図々しくなりやがって。 分かった。 こっち終電早いから……ああ、タケに迎え頼んどくから、こないだん店で待っとけ。 時間も遅いし、外で食うのもいいだろ?」
タケさん。
あの長身イケメン店長さんだね。
男性が苦手と言っても、タクマさんに関わるのなら、また話は別である。
そう、あたかも神にかしずく天使たちの如く。
「言っとくけど、タクマさんは神様の方なんだからね」
「何の念、押されてんのオレ」
大丈夫だよ、ちゃんと男の人の神様だから。 浮かれて話し続ける私に時々笑いを挟みながら、タクマさんが相槌を打っていた。