第6章 #6 移り変わる心境
山奥で5年という長い時間を過ごした花霞にとって、周りに人が大勢いるのは異様で耐え難い空間であった
それに加え、勉学という要素が追加されると最早、花霞の思考回路は回ることを諦めるようになる
真面目な性格故、小さなことを考えすぎてしまう神経質なところがある花霞は知らないことだらけの空間は地獄に等しい
今日も花霞は左を向けばすぐある懐かしき木々の緑を眺めていた
チョークのカツカツといった音と、教科書の捲れる音、響く先生の声に被さる生徒たちの話し声
それがすべて聞こえなくなる
目の前の緑で埋め尽くされる思考
懐かしいと思う反面、それを拒否するような、不思議な感覚
花霞は目を奪われる
故郷と言えるであろうその緑を、なぜこうも複雑に思うのか
その緑に2つの影が見える
でもそれを花霞はまだ、知らない
まだ消えない