第2章 柔な舌に釘を打つ
男は自分の無線ゴーレムを呼び寄せる。
「教団情報管理室、聞こえますか?」
間もなく雑音が生じ、無言で飛んでいた機械から音声が流れ出す。此処がアジアだったら五秒以上の時間差が出来ていただろうが、モスクワは教団とあまり距離が開いていない。
『はい、此方モスクワ任務一班担当。どうかされましたか?』
「実は…――――」
情報管理室とは、大量の無線ゴーレムが拾う音声を管理し、現地のファインダーやエクソシストをバックアップする機関だ。ファインダーについては、一班につき二人の担当が付き、エクソシストには熟練の担当が任務の規模に応じた数だけ付く。
この仕事で最も気を遣うのが、他の担当とのコンビネーションだ。例えば、一班の誰かが二班の誰かと連絡したいとすると、その要求をすぐキャッチして対象のゴーレムに繋がらせなければならない。その時、常に言葉が飛び交っている情報管理室では、担当同士の無駄のない掛け合いが重要になるのだ。
他にも、今回のように管理対象者と通話し対応する場合や、問題と判断すればその本人の意志とは無関係に対処する場合もある。
もっとも、これらは全て無線ゴーレムの電源がONになっていることを前提としているから、任務に付く者達はそれが義務付けられている。そのため遠目で見ると彼らの周囲にはコウモリが群れているように見えるが、それは黒い無機質な羽を上下させている只の機械なのである。
ジェイドバインにもまた専用機が付き従い、環境音、発せられる言葉の一言一句が、そのゴーレム越しに監視されている。今、この瞬間にも、神経をすり減らしながら耳を澄ませている担当がいるのだ。