第2章 柔な舌に釘を打つ
林に囲まれた一本道に通行止めの柵が並んでいる。警備中のファインダーの一人が暗闇に目を凝らす。
粉雪が舞う中、徐々に黒い人影が浮かび上がって来た。
足元まで届く黒コートに身をくるみ、積もりたての雪にブーツを深く沈めながら近付いて来るジェイドバイン。
通行止め用の点滅ランプが、暗闇から現れた彼女の姿を照らし出す。
「ご苦労さん」
フードを少し上にずらし、短く言った。
「ご到着をお待ちしておりました、エクソシスト様」
ファインダーが敬礼する。
「現時点で此処を通った者はいません。他の規制地点も異常無しとのことです」
封鎖された一本道、それを挟む針葉樹林は他の規制地点まで続いているのだろう。
「林の中は誰も監視していないのか?」
「一定間隔に見張りを置いています。また、調査の結果、林に入るためには崖を登らなければならないので、この雪と暗闇の中、普通の人間には不可能だということが分かりました」
では、この警備の網を突破出来るのは、ほぼ間違いなくAKUMAのみとなった。此処まで何の襲撃も合わなかったから、案外この近辺に潜んでいるのかもしれない。そうだとしたら、そろそろエクソシストの臭いを嗅ぎつけて、体中が疼いている頃だろう。
「もし不審な影を見かけたらすぐ知らせろ」
「了解です!」
フードを深く被り直し、トマを連れて柵を乗り越えて行った。