第1章 翡翠の刃で刺し殺す
資料をトランクに仕舞い、厚手のコートを羽織ると、布で包まれた縦一メートル程の物体を背中に斜め掛けする。
「トマ、規制は済ませてあるな?」
「はい。地元警察と協力して教会から半径一キロの区域は立ち入り禁止にしています」
「よし、くれぐれも人を近づけるな」
ここまで厳格にする訳は、近付いて来るAKUMAと人間の区別をつけやすくするためだ。
黒の団服、胸にローズクロスを掲げている者には近付くな、と一般民衆に広がっている一方、AKUMAはエクソシストを襲う習性がある。そこが見分けるポイントだが、そんなこと知らずに近づく田舎者もいる。誤って殺せば神使といえども法律に基づき裁かれる。だからエクソシストの周囲は常に人払いをしておかなければならないのだ。
トランクを片手に個室を出る。乗降口までの長い廊下を進みながら、後ろのトマが話しかけくる。
「そう言えば、この地域では今晩が新月だそうです」
「明後日と聞いていたが…」
「それは教団の位置する西ヨーロッパの話です」
「…」
とにかく、新月ということは、資料に載っていた奉闇の祭とやらが行われるはずだが…。
「予定されていた奉闇の祭は急遽中止になりました」
予想通りの内容に頷く。
「当然だ…」
不謹慎というのもあるし、教団側からしたら調査の邪魔になる。