第1章 翡翠の刃で刺し殺す
「どうかされました?」
「あっ、聞いてくれる?」
急に明るくなった口調にジェイドバインはピクリと眉を動かし、それっきり黙り込む。
上手く誘導されてしまったようだ。しかもこの様子だと、厄介事を押し付けられる。
「僕としてはね、前の一件との関連性を疑っているんだ。でも、その重要参考人が扱い辛い人でねー。ファインダー一同、手に負えない状況なんだ」
期待するような目を向けられ、つい反抗的になる。
「で?」
「そんな怖い顔しないで!」
コーヒーを持つ手が震え、縁から僅かに黒い液体が零れる。
「君はこういうのに関して要領良いでしょ?だから引き受けてくれると有り難いんだけど…」
「情報収集はファインダーの仕事だろ。めんどくさい…」
眉間に皺が寄り、思わず敬語が外れる。元々敬語を使いこなす質ではないので、返ってその方がしっくりくる。
「エクソシストだって必要とあらばするよ。特に室長命令だと、ね?」
現に"これは命令だ"と言っているようなものだ。
溜めに溜めて、ようやく妥協する。
「…分かった」
「本当!?嬉しいなぁ!大助かりだよ!」
室長の人使いの荒さは文句を言ってやりたいレベルだが、その参考人の証言を入手するために、ひとまず我慢する他ない。
いつか目に物言わせてやると言わんばかりに睨み付け、机上の資料をひったくると部屋を後にした。