第15章 12ページ目 弱ったときの特効薬。
目の前で大きな体を曲げてしゃがみ、ご丁寧に蓋まで開けてくれたプリンをスプーン付きで差しだしてくる。
「ん、食えよ」
「え、でも…」
「今回は特別。早く食って、薬飲めよ」
「ほんとに、いいの…う、イタタ…」
「あーもうっ、わかった!ほら、口開けろ」
「ええ…」
躊躇うわたしにしびれを切らした五条くんは、「早く食え」とばかりにプリンを掬ったスプーンを口元に押し当ててきた。
こ、これはもう、食べるしかない。
唇についちゃったしね。
かなり強引なやり方だけど、実際とてもありがたいのでここは五条くんに甘えることにした。
おそるおそる口を開けてぱくり。
プリンの甘い味と香りがじんわり広がると同時に、そーっとスプーンだけが口の中から引き抜かれる。そして新たなプリンを掬い乗せると、再び唇に押し当てられて口を開く。
それを何度も繰り返し、気づけばあっという間に最後のひとくちだ。
五条くんはずっと真剣な表情で、せっせとわたしの口へプリンを運び続けていて。まるで雛にエサをやる親鳥みたいだなぁなんて、親身にお世話をされる感覚がなんだかくすぐったくて胸がむずむずした。
無事にプリンを食べ終えたわたしは、五条くんに促されるまますぐに薬を飲むと、ひとまず楽になるまで椅子に座って休むことにした。
五条くんはといえばまだ心配してくれているのか、自分もプリンを素早く口の中へ流し込むと、わたしの隣の椅子へと同じように腰を下ろした。なんとなく落ち着かない様子で、サングラス越しにこちらをチラチラ見てくる。
…ううん、あまり見られると気になるなぁ。
病気っていうわけでもないから、後は薬が効いてくるのを待つだけだし。
「五条くん」
「ん?何だよ」
「あのね、もう大丈夫だから。そろそろ部屋に戻っていいよ?授業の準備とかあるでしょ」
しばらく五条くんに傍に居てもらって、少し安心したおかげか痛みも少しずつマシになってきたような気がする。ズンドコドンドコの波からトントコドントコくらいには。