第11章 8ページ目 腹時計はとつぜんに。
「五条くん、どうかした?もしかして頭がくらくらする?」
「いや。ただ……こういうの初めてされたな、と思って」
五条くんがぽつりとこぼす。静かに。
それから机に片頬をくっつけてこちらを見ながら、反応に困ったように青い瞳が少し彷徨う。
五条くんて、難しいことをいろいろ知ってるけど…逆に小さい子でも知ってるようなことを経験してなかったりするんだなぁ。
「そっかぁ…あのね、けっこう効くんだよ?このおまじない」
「おまじない…?そういえば、さっきより痛くない…気がする」
反転術式でもねーのに…なんて、不思議そうに頭をさする五条くんに思わず笑いがこぼれる。
こんなにおっきいのに、まるで無垢な幼子のような反応。
みんなもそう思ったのか、夏油くんも硝子ちゃんもそれぞれ口元に笑みを浮かべて、やわらかい眼差しを五条くんに向けている。
夜蛾先生なんて、もう今日の授業は終わりとばかりに微笑みながら教科書を閉じて片付けはじめていた。
「…なんだよ?」
「ううん、痛いのなくなってよかったなぁって思ったの」
わたしたちの笑みに訝し気にする五条くんに、えへへと笑って返す。
本当にごめんね。
もう一度謝って、ようやく上半身を起こした五条くんの前に小指を差し出す。
「何コレ?」
「仲直りしよ~の、指切り!」
「は?指切りって…約束のときにするもんなんじゃねぇの?」
うぬ、しごく真っ当な突っ込み。
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない!ね!」
「…ほんと大雑把な。まぁいっか」
呆れたように息を吐いた五条くんは、それでもわたしの小指に自分の小指をするりと絡めてくれた。
五条くんの小指、大きいなぁ…小指なの?ほんとに?
つい自分の指とくらべて馬鹿なことを考えながら、ゆびきりげんまんの歌を仲直りの歌に変えながら歌う。