第7章 5ページ目 体術の訓練。
わたしはカッと口を大きく開くと、お腹にある五条くんの手にがぶうっと嚙みついた。
「いッでぇーー!!」
驚いて叫んだ五条くんの腕が、ようやくお腹から離れた。
ので、その隙にささっと五条くんからも夏油くんからも距離を取る。
安心したまえ、歯加減はしておいた。
「っ、なにすんだよ!!」
五条くんがこちらに怒気を放ってくるけど、そんなのしーらない。
わたしだって怒ってるんだから!ふんすっ。
それに、わたしのヨダレでべちゃべちゃな手を振っている姿で怒られても…ねぇ。
こほん。ま、まぁそれはおいといて。
気持ちをキリッと改めて、わたしは五条くんと夏油くんの二人をキッと睨みつける。
…あ、夏油くんちょっとぽかんとしてる…え、あれ、俯いて肩震わせて…って、あや?
「ちょっと夏油くん、笑わないで!そんな場面じゃないから!」
「っ…ふっ…くく…ごめ、いやでもっ…まさか、噛むとは…ぷふっ…」
「噛むのもりっぱな攻撃なのぉ!」
「お前は犬猫か。俺の手にヨダレがべっちょりなんですけどー?おい服貸せ、それで拭いてやる」
噛まれた手をひらひらさせた五条くんが、こちらにダッシュを決めて向かってくる。
ひいいいっっ!うああんやだやだやだぁーーーっ!!
「おいっ、逃げんじゃねぇ!お前のヨダレだろうが!!」
「元は自分のでもいったん口から出たものはわたしの管轄外~~っ!!」
「上手いこと言い逃れすんな!責任問題で考えろっ」
「元を正せば噛みつかれるようなことした五条くんの責任だもーんっ」
「お前ってやつは、助けてやったのにもう忘れたのかよ!」
「それはっ……ああーっ、ありがとうございまぁあーーっす!感謝してる!五条くん大好き!」
「うるせぇ!そんな言葉で騙されるか!」
「あああ夏油くん助けてぇーーーっ!!!」
グラウンド中を全力疾走しながらチラと夏油くんを見たけど、夏油くんは地面にしゃがみ込み手をついて体を震わせていた。
ダメだ、あの人。笑ってる。
あああもうすぐ後ろに五条くんがいる。
あと少しで捕まりそう、と思ったとき。
「お前らっっ、いったい何をやっているっっ!!!!?」
高専中に響き渡りそうな、大きな夜蛾先生の声が聞こえた。
……あ、終わった。いろいろと。