第7章 5ページ目 体術の訓練。
ひゅっと喉が勢いよく息を吸い込んで、そのままゲホゲホと咳き込んだ。
げっひょ、げっひょ、うぇっ…げほっ、げほげほっ…はぁ……。
「……大丈夫か?」
「はぁー…うん、もう大丈夫~」
降ってきた声に、頭上を見てへにゃりと笑いかける。
いつの間にサングラスを外したのか、丸見えの蒼眼が見開かれて動揺に揺れている。
おお、珍しい表情だなぁ…うん、こんなときでも五条くんの瞳はとてもきれいだ。
なんて、能天気な心の声など知らない五条くんの眉がぐっと歪み、そのままわたしの顔を覗き込むように項垂れる。
「…はぁ、マジ焦った」
「えへへ、ごめんね。いやぁ、びっくりしたなぁ~」
どうやら、わたしは一時的に呼吸が止まっていたらしい。
いやぁ、綺麗に鳩尾に入ったもんねぇ。
「笑ってんじゃねぇよ、びっくりはこっちの台詞だ。組手中にぼーっとしてんな死ぬぞ」
「いたたた、いたいいたいっ、ごめぇんなさいい!!」
お願いっ、鼻はやめてっ、引っこ抜けちゃいそうっ~~!!
ごめんごめんごめん気をつけるからっ、次から絶対にもっと気をつけるから許してくださいっ!!!
必死になって謝って、ようやく五条くんは許してくれたのかわたしの鼻から右手を離してくれた。
うええん、鼻がもげるかと思ったよぉおう………ある、よね?もげてないよね?
確認するようにそろーっと片手で鼻をさわる。
…あ、よかった。ちゃんとある。うん。
ほっとして息を吐いたら、何を思ったのか今度は甘やかすように優しく頭を撫でられた。
ゆーっくり、そぉーっと。
なでなで。なでなで。
なに?鞭ときて飴なの?ああもう、結局やさしいんだからぁ~~。
不覚にも胸にきゅきゅーんときた。
くそう、五条くんやさしいすきぃ。
撫でかたじょうず、きもちいいーーさいこうです。
「っ、大丈夫?」
「っ、大丈夫かい?」
おっと、うっかり五条くんの撫で上手にうっとりしてしまった。
呼ばれて振り向けば、こちらに駆け寄ってくる二人の姿。
「硝子ちゃん、夏油くん…」
少し焦ったような声、心配そうに下がった眉。
わたしたちの傍は危ないからって、ちょっと離れた場所で訓練してた筈なのに…ちゃあんと気づいて来てくれたんだぁ。
えへへ、申し訳ないけど、嬉しいなぁ。