第7章 5ページ目 体術の訓練。
「ほら、避けるだけでどうすんの?攻撃してこいよ」
「っ、く…っ…!!」
五条くんはいつもどおり軽く煽ってくるけど、それに返事をする余裕もない。
しかも、一撃一撃が重い。
こんなのまともに受けたら、呪力で強化してても軽く吹っ飛んだ上に痣ができる。
まぁ、手加減してくれてるから大きな怪我しないだけマシなんだけど…これで手加減なしだったらと思うと、恐怖でぞっとする。
……あれ?
それだけ強いって、よく考えたら対人間でも対呪霊としても、訓練相手として最適なのでは…?
ちょっとだけ。ほんの一瞬だけ、そんな考えで目の前の五条くんから意識がそれてしまう。
のが、まずかった。
「あ…」
予想していないことが起きたときに出るような、そんな気の抜けた声が前から聞こえて。
そこから先は、不思議と全てがゆっくりに見えた。
地面から両足が離れて、身体が宙に浮く。
目の前から伸びている長い足、その靴先がわたしのお腹にしっかりと入り込んでいる。
そして、浮かんだぶん高くなって目線が合った、口をぽかり開けて驚いたような五条くんの顔がはっきりと見えた。
きっと時間にすればほんの一、二秒ほど…でもそれがやけに遅くよく見えて、これが走馬灯かと思う。
気づけばそのまま、わたしは軽く数メートルほど後方へと吹っ飛んでいて。
勢いが落ちて空中に浮いていた体が下りてくるとようやく、たたらを踏みながらもなんとか地面へ足を着けることができた。
……びっくりしたぁ…。
上半身をふたつに折り曲げた前傾姿勢のまま、自然とお腹をかばうように当てた両手を見ながら呆然とする。
と、そこで妙な違和感に気づいた。
……あれ?…音がしない。
周りに景色はある、のに、なにも聞こえない。
なんでだろ…?
まるで世界から、音だけが切り取られたみたいだ。
そう呑気なことを考えていたら、また突然体がふわっと宙に浮いた。
え…なに…?
がばっと抱きかかえられるように太い腕がお腹にまわって、背中を大きな掌がガシガシと乱暴になでてきた。
とたんに、耳に戻ってきた世界の音。
「馬鹿っ、息しろっ!!」
そして間近で聞こえた、焦るような五条くんの声。
……へ?