第6章 4ページ目 お花見わっしょい(3)
うぐえぐ…と涙ながらに落ち込んでしまうのを止められないでいれば、静かに近づいてくるふたつの足音が耳に入った。
気乗りしないまま、のそのそ顔を上げる…と、そこにはなんともいえない表情をした五条くんと夏油くん。
二人はお互いに顔を見合わせると、ゆっくり膝を折り曲げてわたしと目線を合わせてくる。
そして、ぽむ…五条くんに左肩、ぽむ…夏油くんから右肩に手を置かれた。
二人とも手がおっきいので、なかなかズッシリとした重さが両肩にかかる。
んん、なぁに…?
「しょうがねぇ、もっかい俺とするか?」
「…へ?」
「それとも、悟じゃなくて私にしとく?」
「…は?」
もっかいって、なに?五条くん。
わたしにって、なに?夏油くん。
意味がわからなくて、ただ二人の顔を順番にほけっと見つめる。
「だからキスだよ、キス。硝子としたのがショックだったんだろ?なら、もっかい俺とすればいいじゃん」
「上書きってやつだね。さえよければ、望む通りにしてあげるよ」
五条くんは何も問題なんてないかのように当たり前な顔をして言うし、夏油くんは夏油くんで無駄に色気を振りまいてくる。
たしかに…二人の見た目だけでいえば、むしろ相手の方からお願いしたくなるくらいなのかもしれないけど。
でも、ちがぁあーーーうっ!!!
もっかいして上書きとか、相手が美人の男の子ならいいとか、そういうことじゃないのっ。
二人はもうちょっと乙女心を考えて!
っていうか無理か、考えてこれなのか、最初から終わってた。
高まる心のままに思わずチョップしたくなったけど、ひとまず落ち着こうと深呼吸をする。
すぅー…はぁあー…。
数回繰り返したところで、ちょっと落ちついてきた。
すごいな深呼吸。
ううーん…ふたりとも、一応わたしのことを思って言ってくれたんだよ、ね。
「?」
「どうかした?」
こちらの様子をうかがう声、気づかうような眼差し。
すぅ…はぁ…もういっかい大きく呼吸をしてから、しょうがないかぁと笑う。
「…五条くん、夏油くん」
こんなにも気にしてくれることは、正直とても嬉しい。
それに、もう過ぎたものは変わらないし変えられないのだ。
さらば!わたしのふぁーすときす…うぐ…。
「あのね、キス…は、しなくていいよ」