第6章 4ページ目 お花見わっしょい(3)
「…ぃ………お…っ……おいっ」
声が聞こえる…?と思った瞬間、頬っぺたが引っ張られる感覚。
むにぃっ。
「んひゃ?」
「やっと気づいた…」
引っぱられた元を辿ると、そこにはまた違う白。
ふわふわと揺れるやわらかそうな…白髪。
その下にある黒いサングラスの奥にはふたつの青…微かに覗くそれも、またいつもとは違ってどこか揺らめいて見える。
「…五条くん」
「…なに惚けてんだよ。桜見るのはいいけど、あんま魅せられんなよ」
そう言う五条くんの眉間には、ぐっとシワが寄っている。
「なんで?」
「…想い方にもよるだろうけど、込めすぎたそれらは何であれ呪いに転じやすい」
「あ、そっか!」
「呪術師から呪霊は生まれない。でも、呪いをかけることは出来るんだ。気をつけろよなちびっこ」
「ん、そうなのかぁ…」
ふむふむ、五条くんはわたしの呼び方が豊富だよねぇ。
でもたしかに、きれいきれい!って楽しくはしゃぐのと、切ない…って思いを馳せるのはまた別ものだよね。
そうそう呪いになるほど強く想うことはないとは思うけど。
これまたひとつ、いい勉強になったなぁ。
気をつけようっと!
「五条くん、ありがとう」
「べつに。ただ、お前が…」
お前が…なんだろう?
それっきり黙ってしまった五条くんをじっと見つめる。
「どうしたの?」
「…っ、なんでもねぇ」
「そっか」
「おう」
ふいっとそっぽを向いてしまう五条くん。
ほんとになんだったんだろう?
わからないけど、悪いことじゃない気がする。
だってこれ、五条くん…たぶん照れてる感じだよね。
またなにか心配してくれたのかな?
「えへへ…」
「…なんだよ」
「ありがとう、五条くん」
「…さっきも聞いた」
「うん、そうだねぇ」
「っ、ヘラヘラすんな!」
「いひゃい~っ!」
頬っぺたを右に左に、ぐいぐい引っ張られた。
いちゃい。
優しいけど、優しくない。
涙目になっているとパッと手を離される。
さっきまでと違って、ニヤニヤ意地悪な笑い方。
それは五条くんのいつもの顔で、なんだかほっとする。