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夜行観覧車

第2章 藍鼓動。【五条成代 / 伏黒】



 眠たい。





 
 「働けよ」

 「働いてるよ。眠いの」
 「知らんわ」

 
 ひょわー硝子ってば、かつてのクラスメイトにそーいう事言うの?星来ちゃん泣いちゃう。

 「……だから、アンタに教職は向いてないって」
 
 「えー…。結構上手くやってるけど?」
 そう言うと、硝子はその硝子細工のような眸を潰して、まるで
恵みたいに溜め息を吐いた。





 「隠すのが、か?それとも、」



 なにか間違いでも起こすつもりか?













 「…眠たい」

 双眸の水晶体を隠す目隠しが、遣る瀬なくて、邪魔で、取り外した。
 
 帳を張ったかのような、藍色の夜。なんか恵の眼に似てる、
ふいにそう思った。
 無垢な恵を、私が汚してはならない。何十回と唱えた事か。


 ただ黙って、縋るように絶え間ない、寄る辺ないあの月を眺めた。

 働くって、疲れるね。
 疲れたよ、もう。

 眠たい。
 




 「……んせい。先生、五条先生!」

 「ん、…、何…?」

 誰かの呼ぶ声で、目が覚めた。
 それは忘れることのない、低いテノール。耳朶に溶け込む薬。



 恵だろう。

 「………、なん、で」
 「……伊地知さんに、五条先生呼んで来て欲しいって言われた
 ので」

 
 「………そか」
 
 気付いたら、本当に寝てしまっていたみたいだ。
 体を起こした。

 「…いやぁ〜ごめん。ありがと」
 欠伸を噛み殺して、静かに伸びをする。椅子で寝てた所為か、
少しだけ腰が痛い。


 
 「ん〜、あぁ、迷惑かけてごめんね、恵。でも助かったよ。
 有難う」
 
 「別に……。迷惑ではないですけど、ちょっと無防備過ぎじ
 ゃ、」


 恵は、もし呪霊にでも寝起きに襲われたらどうするつもりですか、と続けた。へぇ、可笑しいね。

 「だーいじょうぶだよ。だって私 最強だから」

 高専の古びた廊下を、隣で歩く。窓から月が、僕らを照らした。


 「…星来さんは、最強呪術師の前に、女性です。心配くら
 いは、しますから」

 影と光が伸びる。二人の規則正しい喘鳴音が居心地良かった。
 



 

 鼓動さえも耳を計らえば、不明瞭に感じられてしまうくらい、


 僕ら二人、藍色の呼吸器と共に夜を游ぐ。














 
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