第1章 実習先、間違えました!!
ドン、て。
ありったけの力で、彼を押し退ければ。
緩く、彼のまわりが光って。
次の瞬間。
彼の身体は壁へと激突、した。
「…………ってぇ、何、今の」
頭を押さえながら、彼がこちらへとベッドを軋ませるのが、視界にうつるけど。
ああもう無理。
限界。
そのまま身体はガクン、て。
崩れ落ちた。
「は?何どーしたあんた」
「…………お腹、空いた」
「は?」
空腹なのに、力なんて使うから。
もう自分の身体保つ力すら、残ってないよ。
「なんなのほんとあんた」
「…………ちょーだい」
お願い。
縋り付くように、彼の腕を握りしめた。
「悪魔、なの」
お腹空いて、死んじゃいそう。
「お願い。あなたの『精』あたしにちょーだい」
「『精』って?」
「…………サキュバス、なの」
「…………?」
「お願い。…………助けて」
ごめんなさい。
どうしても合格したいの。
だから。
だからあなたの『精』も『死』も、どっちもちょーだい。
そのためなら手段なんて選ばない。
こんなの卑怯だって、言われたって。
所詮悪魔。
騙し合いなら、得意だわ。
「…………いいよ」
「え」
「好きなだけ、やるよ」
そう言って笑って。
トン、て。
あたしを押し倒すと。
獲物を捕獲したオオカミが、あたしの唇へと狙いを定めたんだ。
これがどんな罠かも知らずに。
だけど結局。
罠に嵌ったのはあたしの方だったのかな。
『精』『死』しか眼中になかったあたしには。
彼の瞳の奥にある罠に、気づく余裕なんてなかったんだ。