第9章 視察
朝食後、私は思いつく限りの救援グッズを手に集合場所へと急いだ。
「伽耶乗れ」
「はい」
出発の時となり私は信長様の馬へ。
もう何度も乗せてもらっているはずなのに、後ろから伸びて手綱を握る両腕が体に触れるたびにドキっとして、準備に奔走し忘れていた昨夜のことを思い出し、また緊張感に襲われた。
「そんなに肩を吊り上げてどうした?」
「な、なんでもありません」
「そうか…」
クククッと、笑う声が頭の後ろで聞こえる。
私が意識していることなんてとっくに分かってるんだ。
「そう言えば、針子部屋から大荷物を運び出しておったようだが何を持って来た?」
まだ少し笑いながら信長様は私に問いかける。
「あー、あれは着古した着物や訳あって売り物にはできない着物を針子達から集めて持ってきました。着る物もなくて困ってると思うので…」
「よくそんなことに頭が回ったな。貴様は以前こう言った被害に遭ったことがあるのか?」
「いいえ、ありません」
「にしては、やけに冷静に状況判断ができておるな?昨日今日で身につくものでもあるまい?」
「それは…多分私のいた時代のおかげです」
「貴様の?」
「はい」
「面白そうだな。詳しく聞かせろ」
信長様の目が好奇の色に染まった。
「えっと…」
地震や台風、土砂崩れなど、現代でも様々な災害が起こりその映像がメディアを使って全国に流され被害の深刻さを訴えてくれる事、そしてそれにより人々がどうすれば良いのかを学び、被災地へどのような支援をすべきなのかを被災した人々の声を聞くことによって知るのだと言うことを、決して上手に話せなかったけれど、私なりに伝えた。
「…よく分かった。貴様の時代は様々な情報が瞬時に皆に伝わるようになっておるんだな」
「はい。スマホを使えば大抵のことは調べることが出来ます。ただ、全ての情報が正しいとは限らないので、そこの見極めは必要ですが…」
「情報戦はいつの時代も健在ということだな」
「信長様なら全然大丈夫そうですね」
(間違いに直ぐ気が付きそうだし…、騙されるとか無縁そうだ)
「貴様は簡単に騙されそうだな」
「それは言い過ぎです。私だって日々学んでるんです」
(信長様にはやられっぱなしだけど…)
クスッと笑い合う平和な時間は、現地に着いた途端に無くなった。