第9章 視察
「此度は力仕事ばかりで貴様の出る幕はない」
信長様は私の申し出をバッサリと切った。
「っ、力仕事は出来ませんが炊き出しならできると思います」
「?炊き出し?物見遊山に行くわけではない。呑気に飯など食ってる暇はないぞ」
またもやピシャリとやられてしまった。
「そんな事分かってます。私たちが食べるためじゃありません。現地で困ってる人たちにです」
「言っておる意味が分からん。奴らこそ食べる余裕も時間もないであろう?」
「え?あの…」
(もしかして…この時代は救援に炊き出しが必要って考えはない?それとも伝え方が悪いのかな?)
人命よりも生活インフラを立て直す方に力を注ぐのはこの時代では当たり前なんだろうけど、その土地の人々に元気がなければそれは意味はないように思えるけど…
「あの、橋も家も流れてしまったって事は、着る物も食べるものも何も無くなってしまったって事ですよね?私は、その方達に温かい食事を振る舞って元気づけたいんです。飢えは最大の敵で腹が減っては戦はできぬと言いますし…」
この言葉がこの時代のものかは分からないけど、思いつく限りの説得の言葉を述べた。
「なるほど、貴様らしい甘っちょろい意見だが一理ある。その土地を立て直しても働き手に元気がなければ村は栄えん。良いだろう、貴様も一緒に来い」
「ありがとうございます」
「政宗、食料庫を開けて現地に運ぶよう手配しろ」
「はっ!」
「信長様、ありがとうございます」
感謝の気持ちをもう一度伝えた。
「礼には及ばん。貴様はまずその朝食をしかと平らげ力をつけておけ。炊き出しとは言え体力は必要だ」
「はい。分かりました」
(そうだよね。現地に行って弱音は吐けない。しっかりと食べさせてもらおう)
「あと、今朝の味噌汁は美味い」
「えっ、本当ですかっ?」
「ああ、腕を上げたな」
「わぁっ!ありがとうございます」
お味噌汁を褒めてもらえた。それだけだけど、それは安土に来て一番嬉しい出来事で言葉で、こんな時なのに舞い上がりそうなくらいに嬉しかった。