第9章 視察
「!」
驚いて手を引っ込めようとする前に素早く掴まれ、紅い双眼に囚われていたはずの視線は天井に行き着いた。
(……あれ?)
膝枕をしていたはずの体はなぜか床の上に倒れ、私の膝上で眠っていたはずの信長様が私を上から見下ろしている。
「信長様、いつの間に起きてっ!」
「最初から寝てなどおらん」
「寝たフリっ!?騙したんですかっ!」
(全部聞かれてたって事っ!?)
「人聞きの悪いことを言うな。目を閉じて寛いでおっただけだ。それを邪魔をしおって」
(嘘だっ!絶対私の反応を楽しんでたに決まってる!)
組み敷かれた体はがっちりと押さえられ抜け出せそうもない。
「は、離してください」
「遠慮するな、先程みたいに好きに触って構わん」
「あれは…」
(寝てると思ったからで、こんな猛獣と化した人に手を出せるわけないじゃん!)
「きさまは確かこのように… 俺に触っておったな…?」
信長様は掴み押さえつけていた私の手を持ち上げて自身の頬に当てた。
「っ、触ったんじゃなくて、突いただけです」
二人を纏う空気が途端に濃くなって頭がクラクラし出した。
「…っ本当に、離してください」
息が上がって呼吸が上手くできない。
「遠慮することはない。伽耶 、もっと俺に触れよ」
掴まれた指先に信長様は唇を寄せた。
「……っ、」
紅い目から視線を逸らす事ができずにいると、信長様は私の指を甘噛みした。
「んっ、」
ピクッと体は反応して声が漏れる。
「良い声だ。確か、ここにも触れておったな」
「えっ?」
もういっぱいいっぱいで勘弁してほしいのに、綺麗な顔が迫ってくる。
(っ、キスされるっ!?)
逃げる事ができない私はギュッと目をつぶって口を固く閉じた。
ガジッ
(………!?)
まさかの鼻ガジ!?
驚きのあまり目を開けば、
「仕返しだ」
ニヤリと、それはそれは出会ってから一番俺様なドヤ顔を見せた。
「っ………」
言いたい文句の言葉が頭の中をぐるぐる回るけど、もはや悔しすぎて声にならない。
信長様の押さえ込む力が緩むのが分かり、這うようにそこから離れた。