第8章 晩酌②
「信長様、伽耶です」
襖越しに漸く聞こえる伽耶の声。
「入れ」
「失礼します」
入って来た伽耶の顔には、やはり来たくなかったと書いてある。
「ふっ、嫌そうな顔をしておるな」
「っ、当たり前です。行くって、返事もしてないのにこんな一方的な約束は困ります」
「だが貴様はここに来た。それも貴様の決断で意志だ」
「その言い方は、ずるいと思います」
「さもありなん」
(貴様はこうでもせねば、なかなか俺に近づこうとせんからな)
「まぁそう睨むな。美味い酒を用意させた」
「え?」
伽耶の目は分かりやすく期待の色を見せる。
「くっ、正直だな。来い。付き合って損はさせん」
「……っ、美味しくなかったら、すぐ帰りますから」
「構わん」
美味い酒に釣られた伽耶は、やはり此度も俺との距離をとって腰を下ろした。
「学ばん奴だ、それだと酒を注げんと言っておるだろう?」
「だって…すぐ変なことするじゃないですか…」
(今朝の事がまだ尾を引いておるのか…?だが、伽耶の気分を変えてやるのは簡単だ)
前回伽耶から預かったカルタを奴の目の前に置いた。
「前回貴様の見せた魔法が解けた」
「え?」
「証明してやる。好きな札を一枚取るがいい」
俺は奴に前回と同じことをして見せた。
「……すごいっ!よく分かりましたね」
「ふっ、それだけではない」
俺は更に上の技を伽耶に披露して見せた。
「えぇっ!どうして!?どうやって?」
伽耶の緊張は一瞬で解けて、驚きの表情を浮かべる。
「えー、悔しいっ!もう一回いいですか?」
警戒心をやっと解いた伽耶は前のめりに札を見つめる。
(まこと表情の良く変わる、見ていて飽きん奴だ)
その後、伽耶は何枚も札をめくったがカラクリを見破ることはできなかった。