第7章 俺のものと言う意味
「悪い悪い。お前があまりに可愛い反応をするからつい。悪かったな」
ぽんぽんっと、宥めるように頭を撫でられた。
「お前の質問だが、俺は信長様にこの身も命も捧げているから、惚れた相手がいたとしても”俺のもの”とは簡単には言えない」
「そうですよね」
(そんな簡単に言うのはやっぱり信長様くらいのものだよね?)
「だが、それは信長様とて同じだ」
「え?」
「信長様は、誰よりもその言葉の重みと責任を分かっておられる。軽はずみなことは決して口にされない方だ」
「あの、信長様の事だなんて…私言ってません」
(友達の話だと言ったのに、固有名詞はもう信長様になってる)
「悪い悪い。そうだったな」
クスッと笑う顔はもうなんでもお見通しだぞと言われてるみたいで、顔が少し熱くなった。
「まぁ、あれだ。長年仕えている俺でさえ、信長様をまだ測り切れていない。だからお前が戸惑うのも分かる。でも信長様なりにお前を大切に思ってるってことは分かってやってほしい。俺が言うのもなんだが、お前はかなり特別待遇だと俺は思うぞ?」
「秀吉さん…」
ぽんぽんっと、その言葉を私の頭に擦り込むように優しく撫でられた。
怒ってたはずの感情はとっくに治まり、無理矢理とはいえお礼すら言わずに部屋を出てきてしまった事に申し訳なさを覚えた。
「けど、あんな事をするのはやっぱりダメダメっ!」
順序も前触れも何もない信長様の行動にはやっぱりついていけないし、理解できない。
でも、理解してしまうのも怖い。
信長様にとって特別だから”俺のもの”だと言われたいんだろうか?
それとも、特別な意味はないと言われたいんだろうか?
理解できていないのは信長様の気持ちだけじゃなく、私自身の気持ちもで…
でもどうせあとふた月もすれば私はここからいなくなってみんなと会う事は一生ないのだから深く考えても仕方がない。と、自分に言い聞かせていた。
「今度会ったらちゃんとお礼を言おう」
無理やりに入れられた懐剣を胸元に戻すと、そこから温かさが広がった気がして、もうその懐剣を嫌だとは思わなくなった。