第7章 俺のものと言う意味
「伽耶、ならば貴様に問おう、此度の事、貴様なら何とする?」
上座でずっと事の成り行きを見ていた信長様がついに口を開いた。
「え?私ですか?」
なんて無茶振りをっ!
この答え方を間違えたら切腹回避が難しくなるのかと思うと怖くて、ない知恵を振り絞る。
(えっと、これはいわゆる職場放棄だから、私の会社の場合だとまずは始末書書いて、重要案件の失敗なら減給?あ、でもお金がないのはきっと困るよね。じゃあ後は降格?でも小姓の下って何だ?分からないぞ?でも切腹の代わりって事はそれなりに重い罰じゃないとダメだし…)
「あっ!暫くは一食抜きにするとかどうですか?」
現代にいたら確実に減給が辛い。でも、一日二食しかないこの戦国においては、一食を削られるなんて私にはかなりな拷問だから、切腹よりは良いと思い真剣に答えたつもりだったのに…
「クックックッ、俺の命と食事一食抜きと同格とは随分と安く見られたものだな」
信長様は大笑いしだした。
「だ、だって…」
「よかろう。蘭丸、此度の事は不問と致す。が、それでは他の者に示しがつかん事も事実。よって、俺がいいというまでは朝餉を抜きとする」
(え、いいの!?)
「信長様、ありがとうございます」
美少年蘭丸君は嬉しそうにそう言って、また頭を畳につけた。
「信長様っ!それで良いのですか?」
「刑が軽すぎますっ!」
家臣達からは不満が漏れる。
「騒ぐな。伽耶の言う事も一理ある。償いは死ではなく生きてこそ償える。蘭丸は優秀なコマだ。まだ使い道はあるゆえ此度は生かすとする」
言い方はどうかと思うけど、とりあえず蘭丸君の命は助かったらしい。
ホッとしたらまたお腹がグゥッと、小さく鳴った。
(今のは…誰にも聞かれてないよね?)
小さく視線だけを泳がせる。
「ふっ、話は以上だ。伽耶の腹の虫が騒ぎ出した。飯にする」
「っ…!」
(聞こえた!?って言うか、みんなにバラさなくてもいいのに…)
キッと、睨んでもお得意のしたり顔で返り討ちにあってしまう。
悔しいけど楽しいといつも思ってしまうのは何でだろう?分からない。
「いただきます」
朝からかなりな脳パワーを使った後のご飯はとても美味しくて…
蘭丸君には一食抜きのペナルティを課した癖に、私はその朝もしっかりとお腹を満たした。