第7章 俺のものと言う意味
時代劇ではなく生で初めて聞く物騒な言葉は、当たり前のように家臣達の口から飛び出してくる。
「武士の情けで自死させてやる。蘭丸、潔く腹を切れっ!」
屈強そうな家臣たちから蘭丸と呼ばれる男性…
(ん?蘭丸って森蘭丸の事っ?)
蘭丸と言えば、美少年と世に名高い森蘭丸に違いないっ!
大変な最中だけど美少年を確かめたい私は、体を乗り出して平伏す男性の顔をチェックした。
横顔だけだけど、確かに!美!美!美!
こんな状況でもキラキラしたオーラが見える美少年だ。
見惚れている間にも、周りの家臣達が彼を押さえつけ乱暴に着物をたくし上げる。
(どうしてみんな何も言わないの?)
周りを見れば、武将達や信長様は何を言わずその光景を冷ややかに見ている。いつもは誰よりも世話焼きな秀吉さんでさえ、険しい顔で美少年を睨んでいる。
「ちょっ、ちょっと待って!」
そして私は耐えられずに、またもや口を出してしまった。
「伽耶様」
喧騒は止み、皆の視線が私に向けられる。
「あ、あの…」
「伽耶悪いが口を挟むな」
険しい顔をしたままの秀吉さんにピシャリと言われた。
「で、でもっ、今からご飯を食べようって時にこんな事…黙ってられません。それにそんな腹を切れと言われるほどの事を彼はしたんですか?」
「そうだ、この蘭丸は信長様の小姓と言う立場にありながら、先の本能寺の変において御館様の命を守るどころか恐れをなして逃げ出した不届き者だ。今頃許して欲しいと頭を下げて戻ったとて、許されることではない」
「そうだそうだ」
「腹を切れっ!」
秀吉さんの言葉に黙っていた家臣達が再び騒ぎ出す。
「し、失敗は誰にでもあります」
「伽耶、これは許される失敗ではない。信長様の命が危険に晒されたのだ」
「でもこうやって戻って来たのにいきなり腹を切れなんてあんまりです。せめてもう一度名誉挽回の機会を与えてあげたって…」
本当にこの時代は命を大切にしなさすぎだ。ううん、違う。一歩間違えれば死んでしまう世の中だからこそペナルティも重い。だけど…
「死をもって償うなんて…死んでしまっては何も償う事はできません。ごめんなさい、生意気だって分かってますけど、そう言うのは嫌なんです」
「伽耶…」
秀吉さんの困惑の声と共に、また静寂が訪れた。