第6章 本職
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「好きなだけ食え」
どどーんと、目の前に山盛りの団子達…
「いただきます」
こんなに食べられないけど、あんなに豪快な音を鳴らした手前、文句は言えない。
「あの…色々とありがとうございました。でもどうして私があそこにいる事分かったんですか…?」
あの斬られてボロボロになった茶室は誰が弁償するんだろう?と、気になるけど、それよりも今は信長様が助けに来てくれた事の方が気になる。
「貴様が城を出た後、針子が貴様の様子がおかしいと知らせに来た。行き先を伝えていったのは賢明な判断だったな」
「そうなんですね」
(不審に思わなかったのは私だけなんだ。あとで針子さん達にもお礼を言わなくちゃ…)
「あーでも、相手に騙されてるなんて思わなかったな…これも頑張って仕立てたのに無駄になっちゃった…」
昨夜必死で仕立て終えた自分の小袖を入れた風呂敷包を残念な気持ちで見つめる。
「見せてみろ」
「え?あ、はい」
包みを開いて信長様に見せると、信長様はそれを手に取り隅々まで眺めた。
「自信があると豪語しただけのことはある。いい腕だ」
ニッと、その顔は優しく私に向けられた。
「ほっ、本当ですかっ?」
「ああ、よく出来てる」
「やったぁ!ありがとうございます。あー、褒められたら食欲湧いて来ました」
褒めてもらえるとは思ってなかったから嬉しくて、団子を両手に持って頬張った。
「忙しい奴だ」
信長様も団子を手に取り口に運ぶ。
「あ、そう言えば、さっきみたいな事、あまり言わない方がいいですよ?私も困りますし…」
「なんの話だ?」
「私が信長様のもの…みたいな誤解を生む事です」
「嘘は言っておらん。貴様は俺が本能寺で拾った俺のものだ」
「っ、人を石ころみたいに言わないで下さい。それに、信長様の恋仲の人が聞いたら怒りますよ?」
聞こうと思っていた彼女の存在をさりげなく聞いてみる。
「ふっ、そんな者はおらん」
「え、恋仲のお相手、いないんですか?」
「俺の天下統一に益のないものに興味はない」
「そうなんですね…」
(目指すものが大きすぎてそんな余裕はないって事なのかな…、イケメンなのにもったいない)
でも彼女はいないと言うその返答になぜか心がホッとしていて、私はお団子をまた手に取り頬張った。