第6章 本職
「こんな所にのこのこと来おって、貴様の頭は一体どうなってるっ!」
まさに仁王立ち。この年でこんなに怒られることになるなんて…
「そ、そんなに怒らなくても…私は本当に仕事だと思って…」
「道に迷い襲われたかと思えば次はこれか?余程貴様は襲われるのが好きと見える」
「なっ!そんなわけないじゃないですかっ!私だって好きでこんな目に何度もあってるわけじゃありませんっ!」
(確かに疑わなさすぎたけど、そんな言い方しなくてもいいのに…)
消化できない思いが込み上げ、悔しくて信長様を睨んだ。
「何も…されておらんだろうな…?」
突然、信長様の手が私の頬に触れた。
「えっ…?」
「あの男に、触れさせておらんだろうなと聞いておる」
「も、もちろんです。信長様が助けてくれましたから…」
(叱られたと思えば次は心配?)
飴と鞭のような信長様の態度にドキンッと鼓動が大きく跳ねた。
「あの…」
(ダメだ。目を…合わせられない)
いつもとは違う心配気なその目を見つめてしまうと吸い込まれそうで……
「目を逸らすな」
頬に当たられた手が顎を掴み上げると視線を強引に合わせ、逃がしてくれない。
「……っ、」
(何でそんな目で見るの?本当に…心配したみたいな…)
何とも言えない雰囲気に包まれた時、
グゥーーーーーーーー
信じられないタイミングで、しかも信じられない大きさと長さでお腹が鳴った。
(うそっ!なんでこんな時にっ!?」
「……」
信長様の顔が驚きに変わり…
「いや、これはあの……」
「くっ、ククッ、…」
驚いていた顔は崩れて大笑いに変わった。
「ククッ、貴様、腹に何か飼っておるのか?ああ、蛙憑であったな…それにしてもあの音…ククッ…まこと、貴様は想像を超えて来る…」
「失礼しました…」
(だってこの時代の人って、一日二食しか食べないんだもん)
三食しっかり食べていた私には軽〜いプチ断食みたいな日々で、痩せる事は出来るだろうけど、日中お腹が空いて辛いのだ。
(ああ…でも、生きて来た中で一番恥ずかしいお腹の鳴り方だ)
「行くぞ」
「え?」
「まだ叱り足りんが先にその腹の怪物を鎮めるのが先のようだ」
信長様は私を馬に乗せるとそのまま甘味処へと連れて行ってくれた。