第6章 本職
「あー、もうお腹いっぱいです。ご馳走様でした」
ぽっこりしたお腹をさすりながら私は信長様にお礼を言う。
「おい、口についてる」
「え?」
「団子の餡がついてる」
「えっ、うそっ、どこですか?」
「右だ」
「ここ?取れました?」
「違う俺の右で貴様の左側だ」
今度は指で自身の口のを指して教えてくれる。
「こっちですね。とれましたか?」
ゴシゴシとして再度信長様に見せた。
「貴様は本当に…」
もう見慣れた信長様の呆れ顔がなぜか近づいて来る。
「え?」
手首をもたれるとグッと顔が至近距離に迫り…
ぺろっと私の唇の横を舐めた。
「へっ?………ええっ!?」
舐められた所に手を当てて私は後ろに仰け反った。
「団子もうまく食べられぬとは…、貴様は”でざいなぁ”以外は全てが不器用だな」
「なっ、なっ、なっ、舐めたっ!?」
「俺が俺のものを味わって何が悪い?」
「だっ、だから私は物じゃあ…」
「どうせそのうち俺に味わい尽くされる。今味見したとて問題はあるまい?」
「文句ありありですよっ!こんな…」
(付き合ってたって中々しないことを簡単に…)
胸が…胸がドキンドキンと高鳴る
「そろそろ城へ戻る」
まるで何もなかったかのように立ち上がり馬の方へ歩く信長様の後ろ姿を見つめる。
(何でこんな事平気でできるの…?)
一目惚れじゃない恋なんてなかった私には、この胸の鼓動の意味は分からない。
「早く来い、置いて行くぞ」
「あ、待ってください」
過剰なスキンシップも歯の浮くようなセリフも、常に俺様で自信に溢れている所も、全て今まではカエルが飛び出して来た案件ばかりなのに、一向に嫌になる兆しはない。むしろこんな掛け合いが楽しくなりつつある。
(どうしてこんなにも胸が騒がしくなるんだろう…?)
浅く薄っぺらな人生しか歩んでこなかった私には到底理解不能で…
今までの経験からは解決できない気持ちがぐるぐると渦巻き始めていたことに、私は気づかないフリをして信長様の後を追いかけた。