第6章 本職
「……っ、あの、手を貸していただければそれで…」
「うるさい騒ぐな、落とされたいか?」
「いいえっ、ごめんなさい。騒ぎません」
(うう、でも恥ずかしい…)
「伽耶さんっ!」
部屋を出ようとする私たちを若旦那が呼び止めた。
「っ、若旦那さん」
「伽耶さん行かないでくれ。君を本当に愛しているんだ。お願いだ」
斬られた前髪を押さえながらも私が好きだと懇願する若旦那に同情するものの、白無垢を被され押さえつけられた時の恐怖が蘇り、体を震えが襲った。
「……っ」
もう顔も怖くて見れない私は、顔を信長様の胸に埋めてその恐怖に耐えた。
「貴様、何を勘違いしておるのかは知らんが、伽耶は俺のものだ。貴様にはやらん」
「信長様のっ!?お言葉ですが、伽耶さんは恋仲の相手も、好いている相手もいないと…」
若旦那は引き下がらない。
「この女が何と言おうと俺のものである事に変わりはない」
「伽耶さんは、信長様の愛妾という事でございましょうか?」
(あっ、愛妾って…愛人って事っ!?)
「違っ..フゴッ、フゴゴッ…」
聞き捨てならない言葉を否定しようとした途端、顔を強く胸板に押し込められて阻止された。
「ふっ、男女の事をそれ以上聞くのは無粋と言うもの」
「フゴーーーっ!フゴゴゴゴーーっ!」
(ぎゃー!なんて事をーー!誤解されちゃうーー!)
顔なんか見えなくても分かる。きっと今の言葉は愉しそうに口角を上げて言ってる!
「分かったのなら、その顔二度と伽耶の前に見せるな!次は命はないっ!」
低く威厳に満ちた声が若旦那にとどめを刺した。
「……っ、………っく、」
項垂れた若旦那をその場に残し、私たちは茶室を出た。
「あの…もう自分で歩けますから…」
茶室を出てすぐ、私は信長様に降ろして欲しいと伝えた。
でも、それを無視して信長様はスタスタと無言で歩いて行く。
(凄く…怒ってるっぽい…?)
顔をチラッと見れば、不機嫌さが前面に出ている。
それでももう一度降ろして欲しいと言おう思った時、私達は旅籠屋を出て信長様の馬の前に到着し、信長様は無言のまま私を腕から降ろした。
「あの…」
「この、大たわけがっ!」
「ひゃっ!」
突然、肩が窄むほどの大声でど叱られた。