第6章 本職
「伽耶っ、扉から離れろっ!」
「……っ、え?」
信じられないけど、信長様の声。
「やっ、待って、今…」
声は聞こえたけど、がっしりと組み伏せられている体を動かす事はできず、狼狽えていると、
ズバッと、扉の上にある障子が斬られ、ガラガラと土壁が崩れ視界が一気に開けた。
(うそっ!刀すごっ!)
襲われている最中だけど、刀の威力の凄さに度肝を抜かれた。
そしてその先には信長様が立っていて、
「……っ、信長様…っ!?」
「貴様、針仕事は得意だと言っておいてこのザマか?」
呆れ顔で押し倒される私を見下ろしそう言った。
「それは…」
(いきなり説教?)
「信長様っ、伽耶さんと私は既に夫婦の契りを交わし夫婦となりました。伽耶さんを私にください」
私の言葉を遮りそう言うと、若旦那は信長様に頭を下げた。
「ちょっ、何言って…!」
(まるでもうやってしまったかのように言わないでっ!)
「伽耶さんはこのまま私が必ず幸せに致しま…すっ!?」
ヒュンッ!
刀が、綺麗に空を斬った。
パサッ……
落ちたのは、若旦那の髪……
「っ、ヒッ!」
若旦那は斬られた前髪を押さえて後ずさった。
「信長様、待って!」
“殺さないでっ!”と言う前に、
「伽耶の前であった事に感謝するんだな」
それだけ言うと、信長様は刀を鞘に収めた。
「……っ」
(私がまた怖がって泣くといけないから、手加減をしてくれた…?)
違うかもしれないけど、ただの勘違いかもしれないけど、そんな信長様の姿に胸がキュッとなった。
「伽耶、行くぞ」
「は、はいっ……ぁっ、」
体を起こし立ちあがろうとするけど…
「如何した?」
「あの…また腰が抜けたみたい……」
人生二度目の腰抜け…、力が入らない。
「貴様は本当に…」
ふぅ〜っと、以前も聞いたことがある大きなため息と共に両腕が伸ばされ、
「わっ、」
これまた人生二度目のお姫様抱っこをされた。