第6章 本職
「伽耶、頑張ってますね」
去って行く伽耶の後ろ姿を見ながら秀吉は口を開いた。
「騒しくうるさい女だが、見ていて飽きんな」
信長も珍しく穏やかに口角を上げた。
「あの、信長様、秀吉様」
そこへ針子部屋から針子の一人が出てきて二人に声をかけた。
「どうした?」
秀吉が答える。
「あの、伽耶様の事なんですけど、ちょっと気になる事がございまして…」
針子のその言い方から、あまり良くない話だと分かり今度は信長が口を開いた。
「伽耶が如何した?申してみよ」
「は、はい。実は….」
針子は伽耶が呉服屋の若旦那に執拗に言い寄られ困っている事と、今回の依頼内容と打ち合わせ場所がどうにもおかしい事を二人に告げた。
「阿呆が…言ったそばからこれか」
針子の話から、この間の伽耶の悩みがこの事だと信長は悟る。
「伽耶の身が危険ですね。信長様、俺が行って現場を押さえ伽耶を連れ帰ります」
「いや、待て」
信長は頭を下げ行こうとする秀吉の肩を掴み止めた。
「俺が行く」
「信長様自らですか?」
「何を驚く。あれは俺のものだ。俺のものを俺が守るのは当然であろう」
「では俺もお共を…」
「俺一人で十分だ」
「ですがっ!」
「秀吉、何度も言わせるなっ、あれは俺のもの、貴様は俺の代わりに軍議でも進めておけ」
「ははっ!失礼を」
「ふんっ、褒めてやるどころか、助けに行かねばならぬとは…まこと手のかかるじゃじゃ馬だな」
愚痴るその顔を見れば楽しそうで… 、
(珍しいこともあるもんだ)と、秀吉は頭を下げながら心の中で思った。