第6章 本職
若旦那の行動は、それからもどんどんエスカレートして行った。
商品を納めに行けば必ずプレゼント攻撃と女将の説得攻撃、そして若旦那の告白が待っていてもう限界で…、そろそろ誰かに代わってもらおうと思った矢先、
「え、私にですか?」
「そう。私の従姉妹が今度茶会で着る着物を新調したいと言ってきてね。伽耶さんの仕上げた着物を私も見てみたいし、どうかなと思って」
「そんな大切な場に来て行く着物の仕立てを私にさせてもらってもいいんですか?」
「もちろんだよ。伽耶さんはきっといい仕事をすると私は思っているから、伽耶さんにお願いしたいんだ。ダメだろうか?」
私個人への仕事の依頼と言う、魅力的なオファーが舞い込んだ。
「ダメなんてそんな、是非やらせてください」
「じゃあ、今度本人も交えて打ち合わせをしたいから、ここまで来てくれないかな」
若旦那は袂から折り畳んだ地図を取り出して私に渡した。
「ここで、ですか?お店じゃなくて?」
「恥ずかしがり屋な従姉妹でね、ここでは嫌だと言うから、少し城から遠いけど大丈夫かな?」
後で考えれば、恥ずかしがり屋な人が茶会になど行かないだろうし、それなら店先ではなく若旦那の家の奥ですればいい話だと気付くのだけど…、
「はい、分かりました。では明日ここに伺いますね」
初仕事を受けた私は舞い上がっていて、何も疑わずに店を後にした。
その夜は少しでも依頼主に安心してもらえるようにと、以前から少しづつ縫い始めていた自分の着物を仕上げ、参考の品として持って行くことにした。
〜次の日〜
「それでは行ってきまーす」
必要な道具と昨夜仕上げた着物を手に、私は意気揚々と針子部屋を出た。
「伽耶、今日も城下に行くのか?」
廊下を通りかかった秀吉さんと信長様偶然出会い、秀吉さんが声をかけてきた。
「はい。初めて私に仕立ての依頼が来て、今からその打ち合わせに行く所です」
「そうか、気をつけて行けよ」
「はい」
「力みすぎてヘマをするなよ」
私が何かをしでかすと思っている顔で信長様は意地悪く言って来た。
「もう、信長様は一言余計です。ちゃんとできたら褒めて下さいね」
「できたらな」
ふっと鼻で笑う信長様に、帰ってきたら絶対褒めてもらおうと意気込んで、私は城下へと急いだ。