第6章 本職
「仕事か?」
この刺さるような視線を感じないのか、秀吉さんは私に話しかける。
「うん。仕上がった着物をお店に届けに行こうと思って」
「そうか、えらいな」
ぽんぽんと、秀吉さんは笑顔で私の頭を撫でた。
ザワッとざわめきが起きる。
(ああ、秀吉さん。ここではやめてほしい)
「どうした、元気がないな」
今度は政宗が額を寄せて熱がないかの確認をする。
「!!」
今度はきゃあっと、小さな悲鳴も起きた。
「あ、あの二人とも、恋仲でもない相手にこんな事すると誤解されるから気軽にしない方がいいよ?」
勘違いされないように私は二人から距離を取る。
「なんだ、照れてるのか?可愛いな」
全然通じていないのか、秀吉さんは距離を再び詰めて頭をまた撫でた。
(ああ、殺されるかもしれない)
「あの…秀吉様、こちらの方は?」
女性の一人が秀吉さんに尋ねた。
「ああ、みんなに紹介してなかったな。伽耶だ。信長様の遠縁の姫だ。少し前から安土城に住んでる。まだ知らないことも多い。困ってたら声をかけて助けてやってくれ」
柔らかな笑みと共にそう告げられれば、
「なーんだ、信長様の遠縁の姫なのねー」
「どーりで」
「安心したわ〜」
「姫様、何かお困りのことがあれば何でも私たちに聞いてくださいませ」
彼女達の空気が途端に柔らかくなった。
(ホッ、良かった。モテる男子と仲が良いとあらぬ誤解を招くのはいつの時代も一緒だ)
視線が穏やかになった彼女達に自己紹介を済ませ、秀吉さんと政宗に別れを告げ、私は着物を納める先のお店へと向かった。