第6章 本職
その日から私の一日はとても忙しくなったけど、とても充実した日々となった。
秀吉さんに連れられ紹介された針子部屋では、城内で働く人たちが着用する着物から、戦で使う手拭いまで幅広く請け負っていて、腕の良い針子さんになると、外部からの依頼も入って言わゆる売れっ子扱いで、次から次へとオーダーが入る。
私は、見習いとしてまずは下働きから。でもなかなか学べない和裁を学べるとあって、楽しくて仕方がない。
それに、
「それでは行ってきまーす」
仕上がった着物を納めに行くのも見習いの仕事だから、お城の外に出られる機会も増えて、城下の地図も頭に入る。なんて一石二鳥!
安土城内は広くて中庭も素敵だけど、ずっとホテルに篭っているみたいな感覚で息が詰まる。一日一回は外に出たい私としては見習いサイコーなのだ。
「今日も寄り道しちゃおう」
会社でも、よく取り引き先から戻る時にカフェに寄ったりしてちょっと寄り道してたっけ。
少しの背徳感とわくわく感。仕事中の寄り道は本当に楽しい。
「おい、信長様が本能寺で何者かに襲われたらしい」
「俺も聞いた。まだ犯人が分からないらしいじゃないか」
「まぁ、信長様のあのやり方じゃな。誰に殺されても不思議じゃないよな」
「そうだな。だが今回は明智様が首謀者だって聞いたぜ」
「俺も聞いた。秀吉様の苦労が偲ばれるな」
町に出ると、こう言った噂話も頻繁に聞こえてきて、嬉しい反面心の痛い事もある。
町の人々はとても噂好きだ。
あちらこちらから、信長様の恐ろしい噂や光秀さんの裏切り疑惑が聞こえてくる。
かと思えば、
「昨日秀吉様から文の返事を頂いたわ」
「あら、私は頭を撫でて頂いたわ」
「私なんて、政宗様に見つめられたわよ」
「やはりお二人は最高よね」
「でも三成様も放っておけなくて素敵だわ。お世話して差し上げたい」
「そうね、あの寝ぐせ、直して差し上げたいわ」
などなど、武将たち(主に秀吉さんと政宗)のモテ話もたくさん聞こえてくる。