第6章 本職
私も一口ごくん。
(確かに、何かが足りない)
「えー、何だろう?」
「伽耶お前、出汁取ってないだろう?」
首を捻る私に政宗がそう言ってきた。
「出汁?うん、取ってないけど」
(そんなの取る必要ある?)
「そりゃダメだ。味噌汁は出汁が命だ。削り節もいりこもあっただろう?」
「あ、うん。でも…お味噌自体にダシが入ってるからいらないかなって思って」
「は?味噌に出汁は入ってない。誰がそんなこと言った?」
政宗の驚いた顔。
「え?お味噌の中にダシって入ってるよ?
私がいつも使ってるお味噌はダシ入りって書いてあるから、そのまま溶かして飲んでたんだけど…」
(違うの?)
「出汁入りの味噌と言うのは初めて聞いたが、お前の言いたいことは分かった。だがここの味噌に出汁は入ってない。次からはちゃんと出汁を取れよ」
「はい。…でも出汁は取ったことがないのでまた教えてください」
「おう、明日の朝から特訓だな。あと、味見くらいはしろよ」
「はい。気をつけます」
(味見、確かにしなかったな…)
「皆さんもごめんなさい。明日からまた頑張るので、今朝はこれでお願いします」
ダシ入りのお味噌が当たり前じゃないなんて…また自分の時代とのギャップを発見だ。
「まぁなんだ、あまり気にするな。ゆっくり頑張ればいいからな」
しょぼ〜んとする私を秀吉さんが気遣ってくれる。
「秀吉さん、優しい」
涙を見られてから、秀吉さんの態度がとても柔らかく優しくなった気がしてたけど、気のせいじゃないみたい。
「俺はこれからもこれで構わないぞ」
綺麗な所作でお味噌汁を飲み切った光秀さん。え、大丈夫だったのかな…?
「おい伽耶、光秀の言うことは間に受けるな、あいつは味音痴で何を食べても味がしない」
秀吉さんが間髪入れずに突っ込んで来る。
「そうなんですか?」
あんなに美味しいお抹茶を淹れてくれたのに意外だ…
「なに、食に興味がないだけだ。腹に収まるなら何でもいい」
「なるほど。斬新な考え方ですね」
「褒めても何も出ないぞ」
「いえ、褒めてはいません、驚いてます」
お味噌汁ひとつで随分と会話が広がった。私の時代でも地方によって味がちがうしそれで夫婦喧嘩なんかもあるって聞くから、お味噌汁ってとても奥の深い飲み物なのだと改めて考えさせられた。