第5章 晩酌①
「かるた……?」
「あ、はい。本当はトランプって言う札を使うんですが、この時代にはないのでかるたを借りてきました」
「?かるたで芸だと?」
(ただめくって遊ぶつもりではあるまいな…?)
「はい。今からこの札を使って魔法をお見せします」
「魔法?」
「はい。この札の中から好きな札を一枚選んで下さい。あ、選んだ札は私には見せず信長様だけ見て下さいね」
伽耶はそう言うとかるたを裏返して俺の前に広げて見せた。
意図は掴めんが、言われた通りに俺は札を一枚選び、伽耶に見えぬように確認した。
「どの札か覚えたら、私に見えないようにその札を戻してください」
言われた通りに俺は札を戻す。
「じゃあ、切りますね」
伽耶は何回か札を切ると、俺にも同じように札を切らせた。
「じゃあ、札をここに置きますよ」
札を一つにまとめると、その山を俺の前に置いた。
「一、ニ、三!」
伽耶はそう言いながら札の山を三度指で叩いた。
「信長様、一番上のカードをめくってください」
「?」
言われた通りに一番上の札をめくると、
「!」
「さっき信長様がめくった札ですよね?」
確かに、今手元にある札は、俺がさっき引いた札と同じだ。
「…もう一度やらせろ」
(何かの偶然か?)とも思ったが、何度やっても結果は同じだった。
「どうやった?」
(賭博のイカサマの手口と似たようなものだと思うが…)
「どうって、魔法です。凄くないですか?」
魔法ではないことくらいは分かるが、伽耶のあまりの得意顔にこれ以上詮索する気は失せた。
「ああ、楽しませてもらった。だがやられっぱなしは性に合わん。また晩酌に付き合え、それまでにその魔法を暴いてみせる」
「分かりました。じゃあこの札は信長時に預けておきますね」
満足気な伽耶から札を受け取り俺たちはまた酒を飲み始めた。