第5章 晩酌①
「そう言えば、今日は助けて頂いて本当にありがとうございました。でも、どうしてあの路地裏に偶然いたんですか?」
クイッと、勢い良く酒を飲みながら伽耶は疑問を口にした。
「今日のような輩はどんなに治安維持に努めても必ず湧き出てくる。そんな輩を排除する為にも城下の視察は常に行っておる。あそこに居合わせたのは、ただの偶然だ」
本当に偶然だった。
だがその偶然がなければ今頃貴様は…、そう考えただけで不愉快な気持ちになり、やはり奴らは極刑に処せばよかったと思えてくる。
「そうだったんですね。偶然でも会えてよかったです。ありがとうございました」
あの時の恐怖を思い出したのか、盃を待つ手が震え出した。
「もう忘れろ。飲め」
「はい。いただきます」
話の流れはいつしか伽耶の元彼の話に…
「大地…と言ったな。其奴が初めての男か?」
「う……はい」
「貴様はまだその男に未練があるようだが、まこと貴様の床下手が原因でフラれたのか?」
「ブッ!……ゴホッ、ゴホッ!」
奴は飲んでいた酒を豪快に噴き出しむせた。
「な、何を急に…」
「貴様が言っていた事だ。貴様には何の手管もないからフラれたと」
「う…昨日言った事は忘れて下さい。手管は確かにありませんが、それが原因ではないと思います。彼の心が他の人に移ってしまった。そしてそうしてしまったのは私自身の態度に問題があったんだと思います」
「そうか」
「はい。でも本当に彼の事が好きでしたから、今はいい思い出として残そうと努力中です」
よほど其奴のことを好きだったのであろう。
すぐに顔を赤くするやつではあるが、同じ赤でもその男のことになると桃色を帯びた朱に染まる。
「……面白くないな」
「え?」
「いや、何でもない」
手を伸ばして伽耶の頬に触れると、赤くその頬を染めるが…
「ふっ、まだその色にはならんか」
「信長様…?」
「何でもない。戯言だ聞き流せ」
俺は、興味を持ったものは必ず手に入れる。
「もっと飲め」
「はい。いただきます」
いつか俺のことを考えるだけでその色に染まるようにして見せる。