第5章 晩酌①
「信長様、伽耶です。いらっしゃいますか?」
秀吉が出て暫くすると、伽耶はやって来た。
「ふっ、来たか。入れ」
思わず笑みがこぼれ、思っていた以上に奴が来ることを楽しみにしていた己がいることに気づく。
「失礼します」
伽耶は酒の乗った膳に神経を集中させながらそろりそろりと部屋へ入って来た。
「膳を運ぶだけでそんなにも力む奴があるか」
「すみません、こー言うの運び慣れてなくて気を抜くとこぼしちゃいそうで…」
「難儀な奴だな。寄越せ」
手を伸ばして伽耶から膳を取ると、奴は漸く顔の強張りを解いた。
「ふぅ〜、ありがとうございます。あー階段のとことか緊張した〜」
「大袈裟な奴だ」
膳を運ぶことには緊張するくせに、俺の前では全く緊張を見せないのはこの女くらいなものだ。
「つまみにスルメも焼いてきました」
伽耶は得意顔で和紙に包んだスルメを見せる。
「そうか」
「あ、お酒、お注ぎしますね」
酒を注ぎ終わると、伽耶は俺から距離を取って座った。
「?何故そんな間を空ける?」
遠すぎることはないが、酒を注ぐには不便な距離だ。
「え、だって昨夜みたいに何かされると困りますから」
奴は困ったように顔を逸らす。
昨夜俺に押し倒されたことを覚えていて警戒しているのだろう。
「案ずるな、賭けに勝つまでは何もしない」
「信じられません。だってさっきも足に…」
口に出して言いたくはないのか、奴は肝心な所をモゴモゴと口籠る。
奴との会話は、もうこれだけで面白い。
「あれくらいで喚くな、俺の女になったら、あれくらいでは済まさん」
あの白くてしなやかな足の先を愛でて味わい尽くす。
「……っ、それは、絶対そうなりませんから」
そう言い切る奴の顔が何故か癪に触る。
(話を変えた方が良さそうだな)
「そう言えば、余興を見せると言っておったが…」
「あ、はい。もう見られますか?」
「そうだな。見せろ」
「じゃあ、まずこれを見てください」
話が逸れて安心した伽耶は、袂から何かを取り出して見せた。