第5章 晩酌①
「城下で狼藉を働いた男たちはいかがいたしましょう?」
夜、天主に秀吉がやって来ると、城下で伽耶を襲おうとした男たちの処遇を求めて来た。
「極刑を…と言いたいが、伽耶に助けると約束したからな。然るべき罰を与え安土に二度と近づけんようにしておけ」
「かしこまりました。ですが、命を助ける代わりに晩酌とは…伽耶の提案には驚きました」
「そうだな。はるかに想像を超えて来た提案であったな」
あまりに突拍子もなくて、目の前の罪人を斬る気が失せた程だ。
奴に掴まれた腕に視線を落とせば、奴の冷たい指の感触が蘇る。
(震えておったな…)
「泣き出したのにも驚きました。余程張り詰めていたのでしょう。俺も冷たい態度を取りすぎたと反省しました」
申し訳なさそうに秀吉は言う。
本能寺で俺を炎から救い出し、その後も強気な姿勢で俺に挑んできた奴が見せた”弱さと脆さ”は少なからず俺の興味を引いた。
その涙を止めてやりたいと思い、気付けば抱き上げていた。
涙はすぐに止み真っ赤な顔で下ろせと懇願する奴は足を子供のようにバタ付かせた。
細くしなやかな足が着物の裾から見え隠れする。
(綺麗だな)
女の足になど見惚れたことはなかったが、つい見入っていると、その先の足先が赤く皮がめくれているのが見えた。
「足を怪我しておるな」
そこからは無意識で、吸い寄せられるように奴の足の甲に口づけていた。
あの時のやつの顔…
「ふっ、面白い女を手に入れたものだ」
「あいつ、今夜本当に晩酌に来るつもりなんでしょうか?」
「嘘を言える女ではないだろうが、今頃慌てふためいているのは目に浮かぶな」
大胆なことを言うわりに、すぐにそのことを後悔し挙動不審となる様は見ていて面白い。
「どんな芸を披露するのか俺も気になります。ご一緒させて頂いても構いませんか?」
(ほう、秀吉も気になるのか…)
秀吉の伽耶に対する警戒心は完全に解かれたようだな。だが…
「あれは俺のための余興だ。他の誰にも見せるつもりはない」
慌てふためく伽耶を他の奴に見せたいと思わない。
「これは大変失礼を。では俺はこれで失礼します」
秀吉は頭を下げ部屋を後にした。