第30章 シークレットサンタ
〔…………〕
皆下を向いて口を閉ざしていると、
「実はさ、この間仕入れた呉服屋さんから変わった布を頂いてて……」
またまた違う針子が棚から結構な量と大きさの包みを取り出して広げて見せた。
〔わあっ!〕
驚きの声が一斉に上がり、広げられた布をそれぞれが手に取って眺め始めた。
「これ、絹?」
「ぽいけど、やけに向こうが透けて見えるね」
「本当だ。天女の羽衣みたい」
針子達は口々に感想を言い合っているけど、
「これ、シルクオーガンジーだ」
私には馴染みのある布だ。
「伽耶知ってるの?」
「うん、多分だけど…」
透け感のある白い布をもう一度手に取って触れてみる。
間違いない。現代のとちょっと違うけど、ウェディングドレスなどに良く使われるシルクオーガンジーだ。
大陸の方にはあるけど、この時代の日本にもうあったなんて驚きだ。
「これ、どうやって貰ったの?」
この時代ではかなり高価な物だと思うけど…
「あ、なんか使い道がないからあげるって言われて…、ほら、普通の布よりも透けてて襦袢にもならないからって、この間布を納めに来た時についでに置いて行ってくれて私も困ってたんだぁ」
「なる程…」
いかに価値があろうともこの時代にそぐわなければその価値はないに等しい。信長様が子供達に茶器をあげようとしたのと同じ事だ。
「確か、伽耶の故郷には夜を盛り上げる女性用の肌着があるって、前に言ってたよね?」
「え、言ったっけ?」
針子達とは、よく男女のアレコレについて話したりするから、その時に言ったのかもしれない。
「そう言えば言ったような気も……する?」
「えー、忘れたの?図案も描いてくれたじゃない、ほらコレっ!」
針子の一人はそう言って、和紙に描かれた下着のデッサンを見せて来た。
それは間違いなく私のデザイン画で、
「あっ、描いた。思い出した!」
マンネリ気味な夜の情事を盛り上げるにはって言う、ある針子の相談話をした時に(お昼休憩の時ね)私の故郷にはベビードールと言う肌着(セクシーランジェリー)があるって話をしたことを思い出した。