第29章 収穫祭の珍事
湯船に浸かりながら伽耶を待っている間、俺は先ほどの物怪(もののけ)の事を思い出していた。
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「信長様、お待たせ致しました」
脱衣所で着物を一枚脱いだ所で、部屋に置いてきたはずの伽耶が突然入って来た。
「伽耶、如何した?」
(自ら湯殿に来るなど珍しいな……)
頑なに俺と風呂に入る事を嫌がる伽耶が自ら入ってくるなど初めてで、それ程に昼間に聞いた物怪(もののけ)の話が怖いのかと、込み上がる笑いをこらえた。
「信長様のお背中をお流ししようと思いまして」
だが俺の予想に反して、伽耶は凛とした姿勢で俺にそう言って微笑んだ。
「ほぅ、殊勝な心がけだが、突然どうした?」
(厠に一人で行くのが怖いと言っていた時とは別人のようだな)
突然の心変わりを不思議には思えど、愛しい者の愛らしい申し出に頬が緩んだ。
「信長様のお疲れを癒して差し上げたくて…」
伽耶は分かりやすくしなを作り、俺の胸へ手を添えた。
(ん?酔っておるのか?)
伽耶らしからぬ態度に一瞬疑問を抱いたが、
(今宵の宴では、すすめられるがまま楽しそうに飲んでおったからな。酔いが回って来ていたとしても不思議ではない)
酔った奴を良く知っている俺としては、そう思うことは自然な流れであった。
「信長様、」
そして伽耶は体をぴたりとオレに寄り添わせ、俺のモノを着物越しに掴んだ。
「っ……!」
(こやつっ、こんな手管をいつ覚えたっ!?)
想像以上に大胆な行為に、己の欲はたちまちに膨れ上がって行く。
「まぁっ、ご立派だこと。ふふっ」
伽耶は欲望の塊となった俺のモノを掴んだまま恍惚とした表情を浮かべたが、俺は逆に違和感を覚えた。
「伽耶?」
(言葉遣いが、おかしい……?)