第29章 収穫祭の珍事
行燈のわずかな灯りが信長様を余計に艶っぽく照らし出し、私の心拍数を上げて行く。
「どのみち貴様を一人にしてはおけん。またあの幽霊が出てこんとも限らんしな」
「っ、」
(確かに!あの幽霊が次出てきて気を失わずにいられる自信はないし、部屋で一人待てる自信もない)
「うー、分かりました。でも湯着を着て入りますからね」
「ふっ、構わんが、すぐ脱ぐ事になる」
私の着物を脱がすような素振りを見せ、信長様は私の腰に片手を回して抱き寄せる。
「い、色々と準備があるので、一旦部屋に戻ってもらえませんか?」
(湯着を取りに戻りたいし、何よりも心の準備が必要だ)
「分かった。だが余り待たせると、どうなるか分からぬ訳ではあるまいな?」
「 っ、分かってます!」
艶を帯びた目で私に牽制をかけると、信長様は軽い足取りで部屋へと戻ってくれ、すぐに湯殿へと連れて行かれた。
・・・・・・・・・・
「信長様、私に構わずお先に行って下さい」
湯殿の脱衣所でさっさと着物を脱ぎ落とした信長様に、先に行って欲しいと伝えた。
「諦めの悪い奴だ。まぁいい、貴様に焦らされるのには慣れている」
信長様はそう言って笑い、どこも隠す事なく湯殿へと先に向かってくれた。
「……ふぅ〜、お風呂は本当に恥ずかしいんだよーっ!」
本当に何を今更なんだけど、徐々に脱がされていくわけではなくて最初から裸の付き合いとなるお風呂はどうにも馴染めない。
しかも、事に及んでしまいそうな事も沢山されてしまうし、事に及んだこともあったから、寝所よりも明るく照らされた湯殿では何もかもがはっきりと映し出されて尚更に恥ずかしい。
信長様は余裕顔で綺麗だけど、私はきっと酷い顔を晒しているに違いないと思うと、どうにも気持ちが怯んでしまう。
「でも、困ったことに心底嫌なわけでもないんだよね……」
そう、天邪鬼だとは思うけど、信長様と触れ合うのは好きだから…、だから恥ずかしささえ吹き飛ばしてしまえば気持ちはそっちへ持っていける訳で……
「うん。早く着替えて甘えてしまおう!」
せっかくの二人旅なんだもの。旅の恥は掻き捨てって言うし(ちょっと違う?)
私も素早く着物を脱いで、持って来た湯着へと袖を通した。