第29章 収穫祭の珍事
「!?!?!?!?きっ、消えたっ!?あれもしかして例の幽霊だったんじゃ!?」
「そのようだな……。それよりも、貴様が無事で何よりだ」
信長様は驚く私の顔を笑いながら優しく見つめて抱きしめてくれた。
けれど、
「ごっ、ごめんなさいっ!」
トイレに行きたい限界と幽霊に会ってしまった恐怖とで、危うく粗相をする所だった私は、慌てて厠へ駆け込んだ。
(ふうっ、危ない危ない。あやうく漏らすところだった……!)
スッキリした私は手を洗い手拭いで拭きながら廊下で待つ信長様の元へ。
「すみません。お待たせしました」
「間に合ったようで良かったな」
本物の恋人は行燈を手に持ち、呆れた笑いを浮かべた。
「では改めて湯浴みに行くぞ」
信長様は私の手を取りさも当たり前にそう言うと、今度はご機嫌な笑顔を向けた。
「え?……いや、お先にどうぞ」
乱れた着衣が色仕掛けによるものではないのならば、多分、湯浴みの途中で気付いて助けに来てくれたんだろうけど、でも、それとこれとは別!
「阿保、共に入るに決まっておる」
そして思った通りに信長様は私の返答を一蹴する。
「っ……イヤです」
お風呂に一緒に入る事には未だにとても抵抗のある私は、キッパリと気持ちをお伝えする。
「却下だ。行くぞ」
「ええっ、ダメです!さっきはお一人で入りに行ったじゃないですか」
「貴様の厠に付き合えば共に湯浴みをすると約束したはずだ」
「なっ、それは断って自分で行ったじゃないですか」
「結局俺が助けに来たと思うのだが、貴様はこれをどう説明する」
壁に片手をついて私を囲い込み、深紅の瞳で射抜かれた。
「っ……、それは……不可こ..んっ!」
不可抗力だと言おうとしたのに、途中で唇は塞がれた。
「んっ………っ」
口内を軽く擽り断れない熱を灯すと、信長様の唇は水音を立てて離れた。